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月刊児童文学翻訳
─2002年9月号(No. 43 書評編)─
※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!
児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:[email protected]
2002年9月15日発行 配信数 2,590
M E N U
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◎賞情報1
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オーストラリア児童図書賞発表
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◎賞情報2
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ブランフォード・ボウズ賞発表
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◎注目の本(邦訳絵本)
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『あたまにつまった石ころが』キャロル・オーティス・ハースト文/ジェイムズ・スティーブンソン絵
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◎注目の本(邦訳読み物)
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『ガールズ・イン・ラブ』ジャクリーン・ウィルソン文/ニック・シャラット絵
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◎注目の本(未訳絵本)
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"The Man who Wore All his Clothes" アラン・アルバーグ文/キャサリン・マクエウェン絵
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◎子どもに語る
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第1回「おはなし」と「翻訳」 〜おはなしこねこの会の巻〜
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―― オーストラリア児童図書賞発表 ――
8月16日、オーストラリア児童図書評議会が選出する、本年度の児童図書賞が発表された。1946年に創設されたこの賞は、オーストラリアで最も歴史と権威のある児童文学賞である。昨年、増設された Childhood(幼年向け)部門を含め、全部で5部門となっている。
2002年の ★Winner(受賞作)、☆Honor(次点、各部門2作品)は以下の通り。
2002 Children's Book of the Year Awards
【Older Readers】(高学年向け)
★"Forest" by Sonya Hartnett (Viking, Penguin Books Australia)
☆"Mahalia" by Joanne Horniman (Allen & Unwin)
☆"When Dogs Cry" by Markus Zusak (Pan Macmillan Australia)
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受賞作では、オーストラリアの森に捨てられた3匹の子猫たちの家路への冒険が、子猫の眼を通して語られる。作者の Sonya Hartnett(Sonja と表記する場合あり)は15歳で最初の作品を出版し、のちにIBBYのエナ・ノエル賞など各種の賞を受賞。現在 "Thursday's Child" がイギリスのガーディアン賞のロングリストに挙がっている。次点は双方とも思春期の少年を取り上げた作品。"Mahalia" は、17歳でシングルファーザーになってしまった少年と赤ん坊との愛情物語。"When Dogs Cry" では、いつも負け犬で何をするにも自信のない少年が、よりによって兄のガールフレンドに恋をしてしまう。
【Younger Readers】(低学年向け)
★"My Dog" by John Heffernan, illus. by Andrew McLean (Margaret Hamilton Books, Scholastic Australia)
☆"A Different Sort of Real: The Diary of Charlotte McKenzie, Melbourne 1918-1919" by Kerry Greenwood (Scholastic Press, Scholastic Australia)
☆"Have Courage, Hazel Green" by Odo Hirsch (Allen & Unwin)
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"My Dog" は内部紛争のあったユーゴスラビアを舞台に、戦争の怖さ、悲しさが描かれた作品であり、読者に平和の大切さを訴えかけている。戦争の苦難を、少年は犬との交流を支えに乗り越えようとする。なお、この作品は絵本部門でも次点となっている。次点の "A Different Sort of Real…" は、19世紀初め、スペイン風邪が猛威を振るう中、医師を手助けし献身的に尽くす少女がつづった日記。"Have Courage, Hazel Green" は、1999年から出版された Hazel Green シリーズ、第3弾。作者 Hirsch の "Yoss" は本賞、高学年向け部門のショートリストに入っている。
【Early Childhood】(幼年向け)
★"Let's Get a Pup!" by Bob Graham (Walker Books Australia)
☆"Where Does Thursday Go?" by Janeen Brian, illus. by Stephen Michael King (Margaret Hamilton Books, Scholastic Australia)
☆"Baby Bilby, where Do you Sleep?" by Narelle Oliver (Lothian Books)
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受賞作 "Let's Get a Pup!" は、本賞の他ボストングローブ・ホーンブック賞も獲得し、ケイト・グリーナウェイ賞の候補にもなった(本誌6月号書評編にレビューあり)。次点作 "Where Does Thursday Go?" は、木曜日が誕生日だった主人公の「金曜日が来る前に木曜日はどこへいっちゃうんだろう?」という素朴な疑問がテーマ。 "Baby Bilby, where Do you Sleep?" は、ノンフィクション部門でも次点になっている。作者 Oliver は環境保護に関心があり、作品中オーストラリアの動物を数多く取り上げている。"Sand Swimmers" では、2000年の The Environment Award を受賞している。
【Picture Book】(絵本)
★"An Ordinary Day" by Armin Greder, text by Libby Gleeson (Scholastic Press, Scholastic Australia)
☆"My Dog" by Andrew McLean, text by John Heffernan (Margaret Hamilton Books, Scholastic Australia)
☆"The Red Tree" by Shaun Tan (Lothian Books)
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"An Ordinary Day" は、なんのことない一日も、ちょっと空想するだけで、変てこりんで面白くなる……という話。現実世界と想像世界のコントラストを、木炭とパステルで巧みに表現している。Scholastic Australia Best Designed Children's Picture Book Award を含め、2つのデザイン賞も受賞。"The Red Tree" は精神世界を大切にする Shaun Tan の作品。主人公の心の動きを比喩的に絵で表現し、言葉はいたってシンプル。
【Eve Pownall Award for Information Books】(ノンフィクション)
★"Papunya School Book of Country and History" by Papunya School Publishing Committee (Allen & Unwin)
☆"Soldier Boy: The True Story of Jim Martin, the Youngest Anzac" by Anthony Hill (Penguin Books Australia)
☆"Baby Bilby, where Do you Sleep?" by Narelle Oliver (Lothian Books)
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"Papunya School Book of Country and History" は、Uluru, Ayers Rock などの生活条件の厳しい場所でオーストラリア先住民アボリジニの人々が、どのように学校や教会を建ててきたのか、食料の調達はどうやっていたのか、などの歴史を Papunya School の先生や生徒達がまとめ、本にしたもの。次点の "Soldier Boy……" は14歳という幼さで戦争に自ら出兵していった少年ジム・マーティンを取り上げた作品。Anzac の "A" はオーストラリア、"nz" はニュージーランドを指す。連合艦隊のこと。
(西薗房枝)
―― ブランフォード・ボウズ賞発表 ――
6月26日、ブランフォード・ボウズ賞が発表となった。1999年に世を去った児童文学作家 Henrietta Branford と、編集者 Wendy Boase を称えて設立された同賞も、今年で3回目。英国在住の作家が最初に著した子ども向けの読み物が対象となる。また受賞作の編集者には、新しい才能を育てたとして Editor's Award が贈られる。
2002 Branford Boase Award
"Cold Tom" by Sally Prue (Oxford University Press)
Editor's Award: Liz Cross (Head of Fiction at Oxford University Press)
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生まれ育った故郷を「部族」に追われ、「悪魔の街」へとやってきたトム。生き延びるため、トムは必死で新しい環境になじもうとするが……。作者 Sally Prue は、独創的な設定と端正な文体で、人間社会の本質を鮮やかに描き出した。今秋には新作 "The Devil's Toenail" も発表予定。
なお、候補作は以下の4作。
"Jessica Haggerthwaite: Witch Dispatcher" by Emma Barnes (Bloomsbury)
"The Beat Goes on" by Adele Minchin (The Women's Press)
"(Un)arranged Marriage" by Bali Rai (Corgi Books)
"Mortal Engines" by Philip Reeve (Scholastic Press)
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(森久里子)
―― 石たちとともに送った静かで幸福な人生 ――
『あたまにつまった石ころが』
キャロル・オーティス・ハースト文/ジェイムズ・スティーブンソン絵/千葉茂樹訳
光村教育図書 本体1,400円 2002.07 32ページ
"Rocks in his Head"
by Carol Otis Hurst, illustrations by James Stevenson
Harper Collins Children's Books, 2001
★2001年度ボストングローブ・ホーンブック賞 ノンフィクション部門オナー(次点)受賞作
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赤鉄鉱、ガーネット、白雲母、方解石、カリ長石、ほたる石、閃亜鉛鉱、石英、黄鉄鉱……これらはすべて鉱石、つまり、石。でこぼこした黒っぽい石から、まるみを帯びた淡い色合いの石まで、ひとくちに「石」といってもじつにいろいろな種類があるものだ。こういった石の数々を、少年時代から熱心に集めつづけた人がいた。大恐慌の波が押し寄せて暮らし向きが変わっても、石に対する静かな情熱を失わなかった人。作者オーティス・ハーストは、そんな自分の父親の人生を1冊の絵本につづった。
石を集めるのが好きな少年は、大人になってガソリン・スタンドを始めたとき、店の奥に棚をつくってたくさんの石を並べ、ひとつひとつに手書きのラベルをつけた。T型フォードが出まわると店は繁盛し、石のコレクションはおおぜいのお客さんの目を楽しませた。ところが、やがて大恐慌が起こり、店には誰も来なくなった。やむなく店をたたみ、古い家に引っ越すことにした。屋根裏の棚には、さっそく石が並べられた。それからは一家のあるじとして仕事探しに明け暮れたが、なかなか思うようにはいかない。そこで、仕事のない日は科学博物館に出かけ、ガラスケースに飾られた石を見て過ごした。その博物館で、新しい、そしてうれしい道がひらけたのである。
世の中がどう変わろうと、自分の身に何が起ころうと、騒ぎたてることなく泰然としていたお父さん。まるで、雨が降っても風が吹いても、自然に身をまかせている石のようだ。もしかしたら、石のなかに自分と似たものを見いだし、ガソリン・スタンドや屋根裏で、親しみをこめて語りかけていたのかもしれない。そんなときは時間も忘れ、まわりのことなど一切気にせず、無心になっていたに違いない。頭につまった石ころが、このお父さんを、どんなときでもゆったりとかまえる人にしたのだろう。
さりげないタッチの細い線とやさしい色づかいで描かれた、おだやかなお父さん。そして、絵本のなかから取り出してながめたくなるような、ものいわぬ小さな石たち。そういえば、おたがいに雰囲気が似ているような気がする。
(須田直美)
【文】キャロル・オーティス・ハースト(Carol Otis Hurst)
米国マサチューセッツ州生まれ。教師、学校図書館の司書を経て、児童書のワークショップを主宰。教師向けの児童書ガイドブックや雑誌のコラムなど数多く執筆し、子ども向けの読み物を2作発表しているが、いずれも未訳である。絵本の文章を手がけたのは本作品が初めて。マサチューセッツ州ウエストフィールド在住。
【絵】ジェイムズ・スティーブンソン(James Stevenson)
「ニューヨーカー」誌に挿絵や一コマ漫画を寄せているほか、100冊以上の絵本を発表している。日本で紹介された作品に、『ねえ、まだつかないの?』(リブリオ出版)、『おじいさんのハーモニカ』(ヘレン・V・グリフィス文/あすなろ書房)などがある。コネチカット州在住。
【訳】千葉茂樹(ちば しげき)
北海道生まれ。国際基督教大学卒業。児童書の編集に携わったのち、翻訳家として活躍。『フクロウはだれの名を呼ぶ』(ジーン・クレイグヘッド・ジョージ作/あすなろ書房)、『氷の海とアザラシのランプ〜カールーク号北極探検記』(ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン文/ベス・クロムス絵/BL出版)など訳書多数。
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―― 悩めるオトメ心は万国共通 ――
『ガールズ・イン・ラブ』
ジャクリーン・ウィルソン文/ニック・シャラット絵/尾高薫訳
理論社 本体1,000円 2002.07 286ページ
"Girls in Love"
text by Jacqueline Wilson, illustrations by Nick Sharratt
Doubleday 1997
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ロンドンのハイスクールに通うエリーは9年生になったばかりの13歳。彼女はウェールズでの退屈な夏休みの最中、冴えない年下のダンと知り合う。すると彼からいきなり告白され、文通したいと猛烈アタックをかけられる。でも、エリーはハッキリ言ってありがた迷惑。ダンは年下だし、ダサいし、理想と全然違うから。
やがて新学期が始まり、エリーは親友のマグダやナディーンと再会する。三人の関心事は何と言っても男の子。皆、早く「カレシ」が欲しくてたまらない。しかし、エリーは男の子への憧れはあるものの、太めで縮れ毛の自分に自信が持てない。そこへ突然、ナディーンが「カレシ」について激白! 夏休み中に知り合ったリアムとキスまでしたというのだ。彼女から「独り身」である事をなぐさめられたエリーは、反射的にダンの自慢話を始める。めちゃくちゃイケてる男の子に告白されたと……。
本書は低年齢層向けの著作で絶大な人気を誇るジャクリーン・ウィルソンが、初めて手掛けたティーン向けの小説。最大の魅力はテンポよく語られる、エリーの微妙なオトメ心である。各章の冒頭には彼女の趣味や憧れ、悩みを示すリストが今風のキュートなイラストに彩られ、紹介されている。アルバイト、男の子、音楽やダイエット……。リストの内容を見ると、エリーがロンドンの女の子であることを忘れてしまう。そう、年頃の女の子の悩みや関心事は万国共通なのだ。
また、口語調に徹した訳文に拍手。小さな事件に溢れるエリーの毎日をエネルギッシュな言葉で見事に表現し、本書の魅力を最大限に引き出している。さらに「チョット」「カレシ」といったカタカナの使い方も絶妙でテンポの良さに一役買っている。
ところでアメリカ版の原書(ハードカバー)の表紙には、エリー、マグダ、ナディーンとおぼしき3人の女の子が実写で登場している。本書の生き生きとした会話を読むにつけ、実写の彼女達をつい想像してしまう。児童文学作品の映像化が目立つ近年、普遍的なオトメ心を明るいタッチで描いた本作もぜひ映像化してほしいものだ。
(瀬尾友子)
【文】ジャクリーン・ウィルソン(Jacqueline Wilson)
1945年、イギリスのバースに生まれる。ジャーナリストを経て作家となる。『おとぎばなしはだいきらい』(稲岡和美訳/偕成社)でカーネギー賞HC、『バイバイわたしのおうち』(小竹由美子訳/偕成社)でチルドレンズ・ブック賞を受賞。本作はシリーズ第1作に当たる。原書はこの秋に第4作が出版される予定。
【訳】尾高薫(おだか かおる)
1959年、北海道生まれ。国際基督教大学卒業。現在は東京に在住。本書が翻訳デビュー作となる。
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※2004年3月、作者紹介文中の「カーネギー賞候補」を「カーネギー賞HC」に訂正
―― 小さな笑い、つもりつもって満面の笑みとなる ――
『もってる ふくを ぜんぶ きちゃった ガスキットさん』(仮題)
アラン・アルバーグ文/キャサリン・マクエウェン絵
"The Man who Wore All his Clothes"
by Allan Ahlberg, illustrations by Katharine Mcewen
Walker Books 2002, ISBN 0744589959(PB), 78pp.
★2002年チルドレンズ・ブック賞受賞作
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朝、ガスキットさんはアンダーシャツを着て、パンツと靴下をはく。ここまでは、他のパパと大差ない。ところが、さらにアンダーシャツ、パンツ、靴下を2枚ずつ、それからシャツを3枚、ズボンを2枚……と続き、最後は持っている服を全部着込んでしまう。着ぶくれでだいぶ体格のよくなったガスキットさんは、車に体を押し込んで仕事に出かける。ふたごの子どもたちは学校へ。タクシードライバーの奥さんも仕事をはじめる。だがこの朝、銀行の前で乗せた客は、実は銀行強盗だった。ラジオのニュースで事件を知り「これはアヤシイ」と奥さんが疑いだすと、犯人は赤信号の間にタクシーを降り、ふたごの乗るスクールバスに逃げ込んだ。「子どもたちが大変」と、奥さんはタクシーでバスを追いかける。折りしも車でそこを通ったガスキットさんは奥さんのタクシーを追いかけ……最後にはみんなが車を降りて、ワイワイと強盗を追いかけるドタバタ劇となる。ところで、気になるガスキットさんの着ぶくれの理由だが、これについては事件が収まったあとにちゃんと種明かしがあるのでご安心を。
アルバーグのナンセンスとユーモアが冴える話と、マクエウェンの水彩絵の具とクレヨンによる、ほどよくかわいい絵が合わさって、とにかく楽しい絵本となった。なにせ登場人物の紹介ページにはカーラジオまでのっているのだ。このカーラジオは言葉遊びが好きなへんてこラジオ。漫才のように、発音は似ているが意味が異なる言葉を重ね、少しずつ意味をずらしていって、まったく違ったニュースを作ってしまう。
さて、この「ちょっとしたことが積み重なって、大きなこととなる」というイメージだが、実はこの絵本のあちこちに登場してくる。服を1枚1枚着ていって、大きな体になるガスキットさんにしても然り。頻繁に場面を変えながら、登場人物を入れ替わり立ち代り小出しに登場させ、クライマックスには全員が集まるという構成にしても然り。そしてそれが一番よく表れているのは、小さなユーモアやナンセンスが積もりに積もって、底抜けにおもしろい物語を作り上げているという点だ。「人生なんて、そんな、たわいのないことの集まりなんだ。些細なことを楽しもう」という作者のメッセージが頭をかすめる……なんて無粋をいわず、子どもの心に戻って何も考えずに楽しみたい作品だ。
(大塚典子)
【文】Allan Ahlberg(アラン・アルバーグ)
1938年、ロンドンに生まれる。小学校の教師、郵便局員、墓堀り人など様々な経歴を持つが、作家になるのは子どものころからの夢だった。ケイト・グリーナウェイ賞を受賞した『ゆかいなゆうびんやさんのクリスマス』(佐野洋子訳/文化出版局)、『もものきなしのきプラムのき』(佐藤涼子訳/評論社)など、妻、ジャネットとの共作でたくさんの絵本を出版。他の作品に『いつもお兄ちゃんがいた』(こだまともこ訳/講談社)などがある。
【絵】Katharine Mcewen(キャサリン・マクエウェン)
「ガスキット一家」シリーズ第2弾 "The Woman who Won Things" や、"Cows in the Kitchen" (by June Crebbin, Walker Books)、体の科学絵本シリーズなど、軽快な明るいタッチの絵で注目を集めている。 邦訳はまだない。
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―― 「おはなし」と「翻訳」 ――
〜おはなしこねこの会の巻〜
近ごろ、おはなし会を開くのがブームになっている。わたしたち「おはなしこねこの会」も、そういった活動をするアマチュア集団のひとつだ。ただ、他のグループとくらべると、いろんなところが変わってる。たとえば、会の構成メンバーと本拠地。おはなし会をするグループは、幼稚園や学校のPTA、地区のボランティアといった同じ地域の人たちが作ってることが多い。会を開く場所も、地元の幼稚園、学校、図書館、公民館といった場所がほとんどだ。けれどもわたしたちのグループは、パソコン通信やなんかを通じて集まった人たちの、絵本の翻訳勉強会から始まった。だからメンバーの住んでるところはばらばら。「本拠地」がない。今のところ、勉強会で使う早稲田の貸し会議室を会場にしている。
きっかけは3年前、その絵本の翻訳勉強会で、まとめ役の方がいった一言だった。「おはなしが体に入っていると、翻訳も違ってくるよ」。そこでわたしを含めた勉強会の参加者で、"ちょっと単純・おはなしに興味のある"数人が「ストーリーテリング勉強会」を始めた。これがやってみると、いろいろ発見があって面白い。実際に聞き手に向かって、声に出して、何冊も読んでいくと、物語の流れが実感としてわかってくる。話のリズムが肌で感じられるのだ。「物語を自分の中に取り込んで、また外に出す」という作業は、「おはなし」も「翻訳」も同じ。その重なる点に魅力を感じながら、目の前の人に伝えるという「翻訳とは違う面白さ」にひかれた。そしてなにより、わたしたちは目覚めてしまった――人に読んでもらうのって気持ちいい! そこで各自、おはなし会や朗読会へ通いはじめ、そのうち、「自分たちでおはなし会をしたいね」と話し合うようになった。その希望は2001年秋、ついにかなう。メンバーが全員、@nifty文芸翻訳フォーラム内にある児童書サークル「やまねこ翻訳クラブ(※)」の会員だったので、文芸翻訳フォーラムの文化祭で、初のおはなし会を開くことができたのだ。緊張、緊張、そして、感動!だった。
こうしてわたしたちは「翻訳に役立ちそうだし」という、わりと軽いノリからおはなし会に至った。けれども、勉強を始めて3年、会を開く理由も、地に足のついたものに変わってきている。まず第一に、本の好きな者として、おはなしの面白さを知る者として、子どもたちにその楽しさを伝えたいから。かっこよすぎるけど、これは本心。第二に、もちろん、自分たちも楽しみたいから。子どもに本を読むことは、読んでもらうのと同じくらい、すてきな体験だ。読みながら子どもの反応をみて、反応をみながらまた読む。これを一度やると、やみつきになってしまう。そして第三。わたしたちのおはなし会グループは、児童書の翻訳をしたい人たちの集まりでもある。だから、絵本を(できれば、自分の訳したものを)読んだときの子どもたちの様子、「現場」を見てみたいという気持ちが大きい。
現場といえば、わたしは昨年、とてもうれしい体験をした。2001年秋の文化祭のあと、知り合いの幼稚園で他のメンバーと開いたおはなし会で、自分が訳した絵本『コッケモーモー!』(ジュリエット・ダラス=コンテ文/アリソン・バートレット絵/徳間書店)を自分で読んだのだ。そのときの模様をちょっと再現……。物語は、おんどりが鳴き方を忘れたところから始まる。「コッケモーモー!」「コッケガーガー!」間違った鳴き声のくり返しが続く。そのたびに、子どもたちから、クスクス笑い声。つづいて、おんどりがめんどりに「ちゃんと鳴いてよね」と言われて、しょんぼりするシーン。子どもたちの顔もちょっと悲しそう。そのあと、おんどりが夜、おかしな物音で目を覚ます場面に。少し声を低めて読むと、子どもたちもしんとなった。クライマックス。おんどりの活躍で、農場の動物たちが助かった。みんなにほめられたおんどりは、「うれしくて、うれしくて……(改ページ)コッケコッコー!となきました」。このとき、ほんとうに、すてきなことが起きた。こっちを向いている子どもたちの顔が、ぱあっといっせいに笑顔になったのだ(大げさでなく!)。絵本論とかに書いてある「物語の力」ってこれなんだなあ、とすごく納得した。
メンバーみんなのおはなし熱が高まって、2002年4月からわたしたちは定期おはなし会をスタートさせた。グループ名も「ストーリーテリング勉強会」から「おはなしこねこの会」へ。やまねこ翻訳クラブの有志が集まっているということで、名前に「ねこ」の文字を拝借した。最初は5人だったメンバーも、今は11人。会の内容に関しては、まだまだ手探りの状態だけれど、いろんなおはなしをみんなで楽しんでいきたいと思っている。
定期おはなし会はこれからも続けます。みなさん、遊びにきてくださいね。
(田中亜希子)
●お知らせ1●
やまねこ翻訳クラブの新サイト移行に伴い、本誌掲載の、編集部を含むクラブのメールアドレス、各種URLが以前のものとは変わっています。(以前のURLを今後も使うコーナーも一部にありますのでご留意ください。)新サイトについては情報編の「お知らせ」をどうぞ。
●お知らせ2●
本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
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【イロイロあるから、いろいろ楽しい FOSSIL】 |
ボタンを押すと「赤い」文字盤が「ブルー」に変わる、大きなデジタル数字が文字盤を占領して秒ごとに時計の表情が変わる、しかもその数字が漢字だったり、カバーガラスがビー玉みたいにコロンと丸っこかったりする・・・。小さな腕時計の中にいろいろな「遊び心」を詰め込んでいるのが、フォッシルのウオッチ。直営店にもぜひご来店ください。
《 TEL 03-5981-5620 》
http://www.fossil.co.jp/
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●編集後記●
今月から、各地の「おはなし会」の活動を紹介するシリーズを始めました。好評「Chicocoの親ばか絵本日誌」との隔月連載となります。お楽しみに。(き)
発 行:
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やまねこ翻訳クラブ
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発行人:
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横山和江(やまねこ翻訳クラブ 会長)
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編集人:
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菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
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企 画:
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協 力:
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